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「投扇興」のページ・タイトル

雅でのどかな古典遊技「投扇興」

 「投楽散人其扇(きせん)とかや云へる人は…(中略)、昼寝の夢覚て席上に残せる木枕の上に、胡蝶一つ羽を休む、其扇傍に有りし扇を取って、彼蝶に投打てば、扇は枕の上に止り、胡蝶は遙かに飛び去りぬ…」(『投扇式』・序より)
「投扇興」対戦中。右から2人目がこのページの作者。
「投扇興」の対戦の基本的なスタイル。右から2人目がこのページの作者。

 「投扇興」(とうせんきょう)と言えば、最近はテレビ番組「しあわせ家族計画」(TBS)や「笑点」(日本テレビ)などにもたびたび登場してきていますので、どういったものか知っている方も多いでしょう。
 端的に言えば、「扇」を投げて的に当て、その落ち方によって点数を競う遊びです。

 その起源は、江戸時代中後期は18世紀後半の京都であると伝えられていますが、書物によって諸説があります。

 「投扇興」には多くの流派が存在し、使用する用具やルールなどもそれぞれ異なっていますが、最近テレビでよく登場するのは「其扇流(きせんりゅう)」という流派で、現在は東京・浅草を中心に東都浅草投扇興保存振興会によって保存・振興がすすめられているものです。

 用具や競技法などは古来のものを踏襲しつつも、「落ち方」(扇を投げ、蝶に当たった後の扇と蝶の形態。ふつうは「技」と言うことが多いです)に「源氏物語」の巻名をなぞらえて設けられていた54通りの「銘」を、煩雑さを排するべく約40種類にまとめていて、ルールの理解が容易になっています(ただし、東都浅草投扇興保存振興会では将来的には古文書などをもとに順次古来の「銘」を復元していく意向のようです。2000年5月より「銘」が26種から40種になりました)。
 其扇流の「銘」(技)の一覧をこちらに示しておきます。

 なお、其扇流では「源氏物語」ですが、流派によっては、「百人一首」など他のものをなぞらえているものもあります。


 
 ルールは、1対1で向かい合って対戦する形式です。

 「枕」と「蝶」毛氈(もうせん=赤い敷き布)の真ん中に「枕」と呼ばれる木製の箱を、「枕」の上に「蝶」(的)をそれぞれ置き、枕から扇丈4つ分(約160〜165センチメートル程度)離れたところに左右「席」を設けます。
 対戦する2人以外には、「枕」のそばに「技」を判定し1投ごとに得点を決めていく「行司(銘定行司)」と、1投ごとに扇を取り「枕」と「蝶」を元に戻していく「字扇取役」がいます。そして、各投ごとに得点を記録していくいわゆる「記録係」が各1名ずつで対戦を進めていきます。

 対戦は、まず「一礼」から始まります。
 その後サイコロなどを使って「先方」(先に投げる方)を決定します。
 もう一度、対戦者同士で一礼をして、対戦が始まります。

 おのおのの席上から両者が1投ずつ交互に投げていき、1投ごとに「技」によってそれぞれに最高50点から最低過料20点(つまり20点の減点)までの得点をつけ、10投の合計点数を競います。
 たとえば、扇が蝶に当たらずにそのまま落ちた場合は「手習」という技(?)で「無点」(つまり0点)、扇が蝶に当たり、扇も蝶も下に落ちて(別々の場所で)倒れた場合は「花散里(はなちるさと)」という技になり1点…などといった具合です(技の一覧はこちら)。

 なお、前半5投と後半5投ではそれぞれ席および「先方」を入れ替わります。

 そして、最後も「一礼」で締めくくります。

 扇を蝶に正確に当てるには、けっこう集中力を要しますが、かといってあまり肩肘張ることもなく、気軽に楽しめ、日本人の「雅」の心にふれることができるのが「投扇興」の大きな魅力です。投扇「興」という名の通り、楽しむことがまさに基本です(^_^)。

 ただし、現在のところ用具類は市中にほとんど出回っておらず、とくに九州では入手はきわめて困難(というよりは不可能)なのが残念なところです。

参考資料:『其扇流・投扇興の栞』(東都浅草・投扇興保存振興会)
「真木柱(鈴がらみ)」(50点) 「野分」(過料20点)
写真左:最高点(50点)技のひとつ「鈴がらみ真木柱(まきばしら)」を出して喜ぶ作者。しかし、一歩違えば…
写真右:一転、最低点・過料20点の「野分(のわき)」になってしまいコケる作者。

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